大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)17号 決定 1960年3月31日
抗告人 日邦自動車工業株式会社
相手方 塩谷喜久子
主文
原決定を取消す。
本件を大阪地方裁判所に差戻す。
抗告費用は相手方の負担とする。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は末尾記載のとおりである。
抗告理由第一点について、
記録二四八丁から二五七丁までの競売及競落期日の公告に関する書類によれば、原審が昭和三四年一〇月三日本件競売期日の公告を適法に裁判所の掲示板に掲示してなしたことを認めうるし、又記録中の二四七丁の公告掲示嘱託書及びこれに続く前掲公告に関する書類は西淀川区役所に嘱託した書面の控であるから、これに裁判官の氏名の記載及び契印がないからといつて所論の如く公告がなかつたことに帰着しない。むしろ右嘱託書の控に三谷の印影あり、二六三丁の公告掲示済通知書が大阪地方裁判所第十四民事部裁判官三谷武司宛となつているところに徴すれば同裁判官の嘱託によることを認めるに十分であるから、右の点においては原審競売手続には違法は認められない。
同第二点について、
原決定はその添附物件目録記載の建物一七棟に(イ)(ロ)(ハ)順に(レ)までの記号を附し、そのうち(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(ワ)(カ)(タ)の建物八棟につきその現況左のとおり、として、本決定末尾添附の如き目録を附加していること、原審は本件昭和三四年一一月五日午前一〇時の競売期日の公告に、本決定末尾添附のとおりの公告をしたことは記録上明白であるが、右公告の記載自体によつて明らかなように、「物件目録」の表示において、建物一七棟に対し、(イ)(ロ)(ハ)記号を附していないのに反し、該物件の一部現況の表示に当り、(ト)(チ)(リ)(ヌ)(ル)(ワ)(カ)(タ)なる記号を附したゝめ記号の不統一を来し右現況の表示が前記物件目録中のどの物件の現況を表示せんとしているのか、見当がつき難く、仮りに右公告の記載から右建物一七棟に(イ)(ロ)(ハ)記号が順次(レ)まで附されあるものと想定し得、且つこれと前記現況表示部分とがそれぞれ照応され得るとしても、かくすることによつて右公告が表示するところの現況を認むべき資料は記録中に発見しえず、その一三九丁ないし一四九丁の鑑定書(これ以外に本件競売建物の現況を認める資料はない)の記載によつて認められる真実の現況との間には次のような相違があること、すなわち、
本件公告に現況左の通りと表示する中の
(ト)物件の現況とあるのは、 真実は右想定に基く(ヘ)(ト)(ヲ)(レ)の物件の、
(リ)物件の現況とあるのは、 同(ロ)(リ)の物件の
(ヌ)物件の現況とあるのは、 同(ハ)(ニ)(ヌ)の物件の、
(ル)物件の現況とあるのは、 同(ホ)(ル)の物件の、
(ワ)物件の現況とあるのは、 同(イ)(ワ)の物件の、
(タ)物件の現況とあるのは、 同(ヨ)(タ)の物件の、
各現況であることが判明し、右公告の物件目録の表示は現況の表示と一体をなして改築改造等により既に右(ト)ないし(タ)の建物と一体をなし独立の存在を失つている(ロ)(ヘ)(ヲ)(レ)(ハ)(ニ)(ホ)(イ)(ヨ)の建物(この建坪合計一六三坪三合二勺)がなお右(ト)ないし(タ)の建物と別に独立に存在するかのように公告される結果となつたことが明かであり、原審が右公告に基き競売手続を進行し、右公告どおり(但し(イ)ないし(レ)の記号を附して)の物件目録を添附した競落許可決定を言渡したことは又記録上明白である。
よつて考えるに競売期日の公告に表示せられた不動産と競売すべき不動産との間に右のような著しい相違がある場合は、該公告に競売法第二九条によつて準用される民事訴訟法六五八条第一号が競売期日の公告に具備すべき要件と定める「不動産の表示」を欠いている場合と同視すべく、本件のようないわゆる一括競売においては右一部建物についての公告の違法は全競売物件の公告の違法を来すものというべきであり、これを前提とする本件競落許可決定は違法な手続によるものであるから同法第六八二条三項六七四条二項六七二条第四号に則りこれを取消し、なお適正な手続をなさしめるため原審へ差戻すのを相当と認め、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を準用し主文のように決定する。
(裁判官 石井末一 小西勝 井野口勤)
物件目録
大阪市西淀川区柏里町一丁目一三〇番地上
家屋番号同町二三九番の三
一、木造ルーヒング葺平家建食堂 一棟
建坪 弐拾坪
附属建物
一、木造鉄板葺平家建塗装場 一棟
建坪 拾五坪
一、木造鉄板葺平家建脱衣場及食堂 一棟
建坪 弐拾五坪一勺
一、木造鉄板葺平家建脱衣場及食堂 一棟
建坪 六坪四合五勺
一、木造スレート葺平家建第一機械工場 一棟
建坪 参拾坪
一、木造瓦葺平家建組立工場 一棟
建坪 参拾壱坪五合
一、木造鉄板葺平家建組立工場 一棟
建坪 参拾坪
一、木造鉄板葺平家建便所 一棟
建坪 九坪
一、木造鉄板葺平家建バーカー工場 一棟
建坪 九坪
一、木造鉄板葺平家建湯沸場 一棟
建坪 参坪弐合
一、木造スレート葺平家建第一機械工場 一棟
建坪 五拾五坪五合
一、木造鉄板葺平家建組立工場 一棟
建坪 拾九坪八勺
一、木造鉄板葺平家建事務所 一棟
建坪 拾八坪
一、木造スレート葺平家建第弐機械工場 一棟
建坪 四拾坪
一、木造鉄板葺平家建石炭置場 一棟
建坪 弐坪五合六勺
一、コンクリート造亜鉛葺平家建危険物倉庫 一棟
建坪 参坪
別紙物件目録中現況左のとおり
(ト)物中の現況は
一、木造セメント瓦葺平家建研究室 一棟
建坪 十一坪
一、木造セメント瓦葺平家建組立工場 一棟
建坪 一三四坪九合
(チ)物件の現況は
一、木造セメント瓦葺便所 一棟
建坪 九坪
(リ)物件の現況
一、木造鉄板セメント瓦葺平家建 一棟
塗装バーカー工場
建坪 三九坪
(ヌ)物件の現況
一、木造セメント瓦葺平家建機械仕上工場 一棟
建坪 四八坪
一、木造瓦葺平家建受付電話交換室 一棟
一、木造鉄板葺平家建上家 一棟
建坪 拾参坪七合弐勺
建坪 四坪
(ル)物件の現況
一、木造スレート瓦葺平家建第一機械工場 一棟
建坪 八五坪五合
(ワ)物件の現況
一、木造鉄板葺平家建事務室応接室 一棟
建坪 四八坪七合
(カ)物件の現況
一、木造セメント瓦葺プラスチツクロクロ工場 一棟
建坪 五一坪
(タ)物件の現況
一、木造鉄板葺平家建石炭置場 一棟
建坪 七合
一、コンクリート造亜鉛葺平家建炊事場 一棟
建坪 二坪七合
一、木造セメント瓦葺平家建変、配電室 一棟
建坪 四坪三合
但し左の附属建物の増築がある
一、木造トタン板葺平家建化学室物置 一棟
建坪 弐拾六坪
一、木造瓦葺弐階建倉庫及食堂
建坪 参拾弐坪
弐階坪 弐拾弐坪
抗告の趣旨
原決定を取消し、更に相当なる裁判を求める。
抗告の理由
一、本件不動産競売事件の裁判記録を昭和三四年一一月一七日午前一一時閲覧したところ、民事訴訟法第六六一条第一項第一「裁判所の掲示板」に競売期日の掲示した旨の証跡は見当らない。従つて右公告は本件競売手続においてなされなかつたものである。これは競売法第二九条に違反し本件手続は無効である。
更に、同条第二の「市町村ノ掲示場」に公告を西淀川区役所に嘱託するに当つて、その嘱託書に裁判官の氏名はなく、添附書類に契印なく、いかなる公告を嘱託し、いかなる物件を競売するのかその目録も不明である。これは畢竟その公告がなかつたことに帰着する。
従つて、右無効な手続によつて競落し、これを許可した原決定は取消さるべきである。
二、原決定は「別紙物件目録中現況左のとおり」として
(ヌ) 物件の現況
一、木造セメント瓦葺平家建機械仕上工場 一棟
建坪 四拾八坪
(カ) 物件の現況
一、本造セメント瓦葺プラスチツクロクロ工場 一棟
建坪 五拾壱坪
(タ) 物件の現況
一、木造セメント瓦葺平家建変配電室 一棟
建坪 四坪参合
と表示しておるが、右(ヌ)(カ)(タ)夫々の物件は(同三筆以外も同様であるが)同決定にある「物件目録」のいづれに当るのか不明である。換言すれば、どの物件の現況か見当がつかないので、結局原決定は競落物件を特定しておらない違法がある。
三、更に、原決定が(ヌ)(カ)(タ)で現況と表示しておる物件は抗告人の会社工場内に現存しておるが、この建物は抗告人の所有物件ではなく申立外新日邦自動車工業株式会社の所有である。従つて、原決定は本件競売申立物件以外の物件の競落を許可した違法がある。